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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)2852号 判決 1954年7月02日

主文

原判決中被告人辛正植に関する部分を破棄し、

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

被告人辛凡石の本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人辛凡石の負担とする。

理由

一、被告人辛正植の弁護人杉村逸楼同阿比留兼吉の各上告趣意は単なる法令違反、事実誤認又は量刑不当の主張であって、いずれも刑訴四〇五条の適法な上告理由に当らない。

しかし、原判決は同被告人の判示第一及び第二の各密輸入貨物の運搬寄蔵を刑法四五条前段の併合罪としているのであるが、これを原判決挙示の証拠と照合してみるときは、原判決の認定事実は次のとおりであると認められる。即ち、判示第一記載の貨物と判示第二記載の貨物とは共に金昌中が税関の免許を受けないで朝鮮から輸入し長崎県下県郡鶏知町字久須浜の旧陸軍倉庫に陸揚げしてあったものであるところ、被告人は昭和二四年一一月七日午後一一時金昌中より右貨物全部の運搬保管方の依頼を受けてこれを承諾し、先ず被告人辛凡石と共同して翌日午前二時頃阿比留幸男を使用して右貨物の一部である判示第一記載の物件を判示阿比留修方倉庫まで運搬した上同倉庫にこれを寄蔵し、更に引続いて同時刻頃残りの貨物である判示第二記載の物件を単独で阿比留幸男を使用して判示小川信太郎方倉庫まで運搬した上同倉庫に寄蔵したものである。

右の如く、被告人辛正植の判示第一及び第二の各運搬寄蔵行為は、貨物所有者の一回の依頼により、同一の機会に引続いて行われたものであって、ただ運搬及寄蔵の都合上順次二回に分けて運搬し、かつ別個の倉庫に寄蔵したにすぎないものであり、かかる場合における被告人の判示第一及び第二の密輸入貨物の運搬及び寄蔵行為は包括して単純一罪を構成するものと解すべきである。しかるに、原判決が判示第一の運搬寄蔵と判示第二の運搬寄蔵とはその行為の客体と時及び場所を異にするから、この両者は刑法第四五条の併合罪であるとして併合罪加重をしたことは法令の適用を誤ったものといわねばならない。よって刑訴四一一条一号、四一三条本文に従い、原判決中被告人辛正植に関する部分を破棄し本件を福岡高等裁判所に差し戻すべきものとする。

一、被告人辛凡石の弁護人井本台吉の上告趣意は、単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の適法な上告理由にあたらない。

なお、原判決が同被告人の判示所為を、判示関税法違反及び物価統制令違反の想像的競合罪と認めたことは正当であって、これがために所論の如く、判示物価統制令違反について、大赦令に依り赦免され得なくなったからといって、原判決が第一審判決の刑よりも重い刑を言い渡したものということはできない。

よって同被告人に関し、刑訴四一四条、三九六条、一八一条に従い主文のとおり判決する。

右は当裁判所裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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